童話、のようなもの 序

あるところに、ひとりぼっちのきのこのこどもがいました

とてもさびしいこどものきのこです

ふつうは、こんなにさびしいことはめったにありません

だってきのこのこどもは、おかあさんきのこのかさのしたにうまれるんですから

おかあさんきのこは、ほうしというなまえのたまごをたくさんうみおとします

ほうしは、おかあさんきのこのかさのしたからうみおとされて、たいていはおかあさんのすぐそばでこどものきのこにそだつのです

おかあさんきのこがいきていられるところは、きのこのこどもにとっても、たいへんいごこちのよいところなのです

でも、ほうしがうみおとされるとき、たまたまつよいかぜがふいたりして、ほうしがおかあさんきのこからずうっととおくにとばされてしまうことがあります

そうするとたいていは、あかるいおひさまのしたや、からからにかわいたすなのうえにほうしはおちて、こどものきのこになるまえにひからびてしんでしまうのです

ですから、そんなかぜにとばされたほうしが、こどものきのこになれるなんていうのは、まあ、まずめったにないことなのです

この、ひとりぼっちのきのこのこどもも、かぜにとばされたほうしのひとつぶでした

たくさんのきょうだいがかぜにとばされて、そのほとんどはしんでしまいましたが、このほうしはうまくかぜにのれなかったせいもあって、きれいないけのそばにぽとりとおちました

そこはたくさんのきれいなはなたちがさいているきしべでした

すんなりとせいのたかいきれいなはなたちが、おひさまからのひかりとねつをちょうどいいくらいにさえぎってくれていたので、このほうしはきのこのこどもになるまでうまくそだつことができたのでした

きのこのこどもは、みずぎわにうつるじぶんのすがたをみて、どうやらじぶんはまわりのきれいなはなたちとはちがういきものだということをしっていました

がんばってせのびをして、ずうっととおくまでみまわしても、じぶんににたすがたのものはいないようなので、なかよくならんでおしゃべりしているきれいなはなたちをみると、とてもさびしいきもちになるのでした

ときどき、にんげんのこどもなどがこのきしべにやってきて、きれいなはなをみつけてはうれしそうによろこぶことがありました

はなたちは、そうやってだれかからよろこばれるとうれしくなって、いっそうきれいさをましていくようでした

ときには、まるでこわれやすいガラスざいくでもさわるように、たいせつにはちにうつしかえて、とくにきにいったはなをいっしょにつれてかえるにんげんもいました

そういうときのはなたちは、これまででいちばんなくらいに、うれしそうでほこらしそうでした

ひとりぼっちのきのこのこどもは、それをとてもうらやましいきもちでみあげたものでした

なんどもなんども、そういうしあわせなはなたちを、うらやましくみおくりつづけました

あるとき、おちょうしもののりすがやってきたことがありました

さむくておなかがすくふゆにそなえて、たべものをさがしにやってきたようでした

でもこのきしべには、うつくしいはなたちこそたくさんさいてはいましたが、たべものになるようなきのみをみつけることはできませんでした

いいかげんこのあたりでたべものをさがすのはあきらめて、べつのばしょをさがそうかとかんがえていたところで、たまたまきのこのこどもにでくわしたのでした

おちょうしもののりすは、きのこのこどもにはなしかけました

ねえ、きみ ぼくはおなかがぺこぺこで、いまにもたおれてしまいそうなんだ なにかたべられるものをもっていたら、ちょっぴりでいいからぼくにわけてくれないかな

きのこのこどもは、りすというものをみたのがはじめてだったので、りすがなにをたべられるのかしりませんでした

そこで、りすにこうきいてみました

りすさん、わたしはあなたがどんなものをたべられるのかしらないんです

するとりすはこういいました

ぼくたちは、きのみやむしやみみずなんかをたべるよ きみはみたところきのこどもみたいだからさ、なにかたべられるものをもっているんじゃないかとおもったんだよ

きのこのこどもはこたえました

わたしはむいちもんでなんにももっていないけれども、ひょっとしたらあなたのいうとおり、きのこどもみたいなものなのかもしれません でもわたしはまだこどもで、きのみがなっていないんです

そういって、ざんねんそうなかおをしました

それをきくとりすは、わがいをえたりというひょうじょうでこういいました

そうか、むいちもんできのみもないのなら、それはしかたないなあ ざんねんだけれどもあきらめるとしよう ところでさ、きみのあたまにひらいている、そのすてきなかさはなんていうんだい

そういわれてはじめて、きのこのこどもはじぶんのあたまのうえにひらいたかさにきづきました

このかさはいったいなんなんだろうと、ずうっとちいさなときからふしぎにおもっていたのでした

まわりの、きれいなはなたちのはなびらのようなものだろうかとおもったこともありましたが、どうもそれとはちがってぶかっこうであつぼったいし、おまけにあめがふったあとなどには、みょうなにおいがして、まわりのはなたちはくちにだしてこそいいませんでしたが、ずいぶんめいわくにおもっていたのでした

じぶんでもなになのかわからないそのかさが、なにのためにわざわざあたまのうえにくっついているのか、きのこのこどもにはちっともわかりませんでした

でも、りすはしっていました

きのこのかさは、きのえだにほして、からからにしてからたべると、とてもこうばしくておいしいごちそうになるのです

そんなことなどちっともしらないふりをして、りすはこういいました

ふうむ ぼくがおもうに、きっとそのかさは、やがてきみがきのおとなになったとき、きのみがすずなりになるおおきなえだにそだつんじゃないかな きっとたくさんのきのみのもとがはいっているから、そんなにりっぱであつぼったいにちがいないよ

そういわれると、なんだかほめられたみたいなきもちになって、きのこのこどもはとてもうれしくなりました

そのようすをちらりとみて、りすはさらにことばをつづけました

ねえ、きみ きみがもしいやじゃなかったら、きみのかさをほんのすこしぼくにわけてくれないかい いっちゃあなんだが、きみのまわりのはなたちも、そのかさのにおいにはこまっているんじゃないかとおもうよ

じぶんでもうすうすきづいていたにおいのことをいわれて、どきりとしたきのこのこどもは、りすのいうつごうのいいていあんが、まちがっていることのようにはおもえなくなってきました

それに、なんといってもこのりすは、じぶんのことをほめてくれたうまれてはじめてのしりあいなのです

どうにかして、このりすによろこんでもらいたいきもちが、むねのなかでどんどんふくらんできます

さびしいきのこのこどもは、しばらくだまってかんがえたあと、りすにむかってこういいました

りすさん、わたしのあたまのかさをはんぶんあなたにあげましょう まだちいさいけれども、せめてすこしでもあなたのおなかのたしになれば、とってもうれしいです

それをきくと、まあるいめだまをもっとまんまるにして、りすはうれしそうにいいました

ほんとうかい ああ、きみはなんてこころのやさしいぜんにんなんだろう こんなうすらさむい、くらいそらのしたできみのようななさけぶかいきのこどもにあえるなんて きっとこれは、かみさまがきみとぼくとをめぐりあわせてくれたにちがいないよ

りすのよろこぶさまをみて、うれしくなったきのこのこどもは、かんがえていたもうひとつのことを、やんわりと、おそるおそるくちにだしてみました

りすさん、よろこんでくださってとてもうれしいです わたしもなんだか、かみさまがあなたとわたしとをめぐりあわせてくださったようなきがしてきました もし、いやじゃなかったら

そういって、きのこのこどもはすこしくちごもりました

うん、なんだい ぼくにできることだったら、なんだっておやすいごようだよ きみとぼくは、いま、こうしてだいのしんゆうとなったばかりじゃないか

はやくきのこのかさをもってかえりたいりすは、とてもはやくちにちょうしのいいことをいいました

それをきいて、ほっとしたようにきのこのこどもはいいました

もし もし、いやじゃなかったら、ほんとにときどき、きがむいたときでいいから、ここにあそびにきてはくれないでしょうか わたしはどこにもあるいていけないから、せっかくりすさんとおともだちになれても、あなたのところにはあそびにいけないんです あたまのかさがまたおおきくなったら、それをまた、りすさんにさしあげますから

りすは、なにをいまさらあたりまえのことをいうんだい、というようなかおをしてこういいました

ああ、やくそくするとも きみのさびしいきもちをなぐさめるためになら、なんどだってここにやってきて、きみがうんざりするほどおしゃべりをしよう ふたりがであえたこううんのためになら、ぼくはこのみをすてたっていいくらいのかくごさ

きのこのこどもは、うまれてはじめてできたしんゆうにこうまでいわれて、おおつぶのなみだがぽろぽろぽろぽろあふれてくるほどにかんげきしました

しゃっくりでもするようになみだとはなみずとをすすりあげるきのこのこどもをなだめながら、だいぶくらくなりはじめたそらをきにして、りすはいいました

ああ、もうじきよるがやってくる よるになるとこのへんは、やまねこやふくろうどもがいばりはじめるんだ あいつらは、よめがきかないぼくらをつかまえてきれいさっぱりほねまでたべちまうのさ そろそろすあなにかえらなくちゃ、いくらぼくがすばしこいからってかなわないや

そうきいて、きのこのこどもは、りすのみのうえがとてもしんぱいになりました

さあ、りすさん わたしのかさをあなたにあげましょう

きのこのこどもはそういうと、じぶんのあたまのうえのかさをじぶんでひきさきはじめました

りすは、じぶんできのこのかさをかじりとるつもりでいたので、びっくりしてあんぐりとくちをあけたまま、そのようすをただみまもっています

あまりのいたさにこえをあげてきをうしなってしまいそうでしたが、なんとか、はんぶんよりもすこしおおめに、かさをきりさくことができました

すこしおおめにきりさいたのは、しんゆうになってくれたことへのかんしゃのきもちでした

ちょっぴりでも、このしんゆうのりすによろこんでもらえたら、じぶんもとってもうれしくなれるようなきがしたのです

おもっていたよりもずいぶんおおきめのかさをもらえて、りすはとてもうれしそうでした

きみとのゆうじょうはけっしてわすれられない、いっしょうがいのものさ なにがあったってわすれたりするもんか きっとぼくたちは、これからもずうっとなかよしのだいしんゆうでいよう きょうはこれでしつれいするけれども、またちょくちょく、きみのところへあそびにやってくるよ そうだ、うごきまわれないきみのために、もりのまぬけなきつねのことや、あっちのおおきないけのそばにすんでいるかわうそたちのみごとなおよぎっぷりをみやげばなしにもってこよう かならず、きっとやくそくするよ

そうはやくちでいいおえて、もらったきのこのかさをくちにくわえると、にっこりとほほえむきのこのこどもにむきなおるでもなく、もりめがけていちもくさんに、りすはかけてゆきました

きのこのこどもは、ずきんずきんといたむあたまのかさのきずをてでおさえながら、とおくにみえなくなってゆくりすのうしろすがたをいつまでもずっとみおくっていました

そのよる、あたまのきずはひどくうずいていたみましたが、それでもなんだかとっても、むねのおくのほうがほっこりとあたたかくなるようで、きのこのこどもはいままででいちばんおだやかなきもちでねむりにつきました

あさがきて、またよるがやってきました

そしてまた、そのつぎのあさがきて、そのつぎのよるがやってきました

くるひもくるひも、きのこのこどもは、りすがじぶんのもとへあそびにやってきてくれるのをまちつづけました

まだいちどもみたことのない、まぬけなきつねのことや、むこうのおおきないけのそばのかわうそというのがどんなものなのか、ひとりおもいえがいては、ひとりでわくわくしていました

やがてゆきがふりつもり、ながいふゆがやってきましたが、りすはなかなかやってきてくれませんでした

そんなとき、きのこのこどもは、つもったゆきのせいでじぶんのすがたがみえないからにちがいないとおもうことにしていました

ゆきがとけだして、はるがきて、あたまのうえのかさがまたすこしおおきくなれば、きっとじぶんをみつけてくれるにちがいないと、おもっていました

でも、あれっきり、りすがきのこのこどものもとへやってくることはありませんでした

なぜって

りすは、じぶんがかくしたきのみのばしょさえわすれてしまうほどのおっちょこちょいのうえに、もりいちばんのおちょうしものだったからです

きのこのこどものことなど、すあなにもどったつぎのつぎのひころには、すっかりわすれていたのです

そうしてやっぱり、きのこのこどもは、またひとりぼっちにもどりました

<さだまさし:童話作家>

コメント

  1. 桃源児 より:

    引き込まれて、読んでしまいました。
    平仮名ばかりなのも、童話らしい雰囲気を出していますね。

  2. すずね より:

    >桃源児サマ
    はじめましてです{%一言・よろしくhdeco%}
    ようこそみるくはうすへ{%嬉(チカチカ)hdeco%}
    記事をアップして数分でコメントをつけていただくなんて初めてのコトなものですから、とってもびっくりしました{%感謝(チカチカ)hdeco%}
    あたし自身、童話っていったいどんな作品を指して呼称されているものなのか、わからないまま書いたので、これはあくまでも「童話、のようなもの」とタイトルしました
    このつづきは、また数日後にアップの予定なので、よろしかったらまたご感想などお聞かせいただけるととってもうれしいです
    お暇な時にでも、思い出した時でよろしいので、良かったら遊びにきてみてくださいね(って、なんだかキノコのコドモの台詞みたいになっちゃった^^;)
    これからも、どうぞよろしくです{%一言・ペコhdeco%}

  3. ビバメヒ より:

    これは創作なん?小川未明の作品?

  4. すずね より:

    >ビバ☆メヒコさま
    あらあら、自分で自分の愛称をつくっちゃったんですね
    「なぁ、ビバメヒ」なんて、馴れ馴れしく肩など組まれて、満面の笑みで呼びかけられたりしたいのかなぁ…^^
    あたしはそうゆうの苦手なので、変わらずに「ビバ☆メヒコさま」って呼ばせてくださいね
    この作文はオリジナルです
    こんなのを小川未明の未発表作品だなんて間違えちゃったら、未明センセイの御霊に叱られちゃいますょ
    こないだの土曜の夜から日曜の朝にかけて見た夢の輪郭を、覚醒してどんどん忘れ去ってしまう前に、寝起きスグに大雑把な流れだけ書き留めておいたのを、童話っぽくなるように肉付けしたのがこのおはなしです
    果たしてちゃんと結末までもっていけるのか
    それは、あたしの飽きっぽい体質との相談の上、ですね^^
    素描だけはできあがってるんですケド…
    それっぽくなるといいなぁ

  5. 梅ちゃん より:

    夢の輪郭だったんですか…
    この先、きのこのこどもはどうなっていくのでしょぅ 
    気になるので先に進みます(‘ω’*)

  6. ルイヴィトン バッグ

    童話、のようなもの 序 この世の涯てで 恋を歌うオカマの残骸/ウェブリブログ

error: Content is protected !!
タイトルとURLをコピーしました