前巻までのあらすじ
ようやく手に入れた自らの居場所を、傷心の少女少年は今にも失おうとしていた そんな折、何者かによって少女少年の正体が暴かれ、ようやく手にした勝利も認定をとりけされてしまうという 心の拠り所であったチームメイト達からも冷たく疎んじられ、珠の涙を散らす少女少年に、もはや帰るべき場所は見出せなくなっていた
この時間、夏の盛りであればまだ日も高く、どこかしら悠長に感じられる時の流れも、いまは晩秋の夕暮れ時… 街頭は気忙しい賑わいをみせています
恵み豊かな陽のぬくもりを感じることができる日盛り時を過ぎて、人々が家路を急ぐ頃にもなると、空気は凛と冷たく冴えわたり、無用心な肌を粟立たせるには充分なほどの辛辣さをたたえるようになります
人々が思い思いの速度で行き交い、あるいは立ち止まる雑踏の中を、おぼつかない足取りで彷徨するはかなげな姿があります
時々、すれ違うひとにぶつかってしまって怒鳴りつけられたり、後ろからきた急ぎ足の誰かに背中を押されてよろけたりしながら、少女少年は雑踏に身をゆだねてあてなくただ流れてゆきます
(このストーリーを考えていたのは10才の当時なのですケド、その後 中学生になって「あしたのジョー(再)」を見たワタシは、このあたりの部分に別シナリオを作ったりしました その名も「東北ドサ回り編」です^^; 力石死後のジョーの苦悩みたいなカンジのをやってみたかったんでしょうね)
やがて人々の流れの中から吐き出される様に、その虚ろな姿は人通りの少ない通りの方へと流れつきます
もういいかげん涸れて尽きてもいいはずなのに、泣きはらした少女少年の瞳からは涙がはらはらとこぼれ落ちて止むことがありません
少女少年は、時おり深い紫色を帯びた空を見上げます
そこには、へんてこな形ににじんだお月サマが、やっぱりあの時と少しも変わるコトなくやわらかな光を湛えています
揚々とした気分でチームのみんなと歩いた土手の上でも、お兄さんに想いを打ち明けられぬまま立ち尽くしていた曲がり角の上でも、冷たい夜風のなかトボトボと家へと歩いた道の上でもそうだった様に、お月サマは今もまた東南の空高くに貼りついています
家路を急いで行き交う人々の上にも、暖かな団欒の明かり灯る家々の屋根の上にも、公園の木々の枝に身を寄せ合って住まう小鳥たちの上にも、その日の晩ゴハンを探すおなかをすかせた野良猫たちの上にも、優しく穏やかなその光は浜辺の小波の様に静かに打ち寄せます
断罪され、行き場を失った少女少年の上にすら等しく平等に打ち寄せるそのたおやかな光のベールは、ひょっとすると神サマが少女少年に下し賜うた救済の御手なのかもしれません
深紫の帷に煌々と輝く月天を見上げ、痛哭の想いをクチにする事のできない舌と唇が、それでもなにごとかを誰かに届けたくて何度ももどかしく身悶えします
でも、たとえば仮に声を発するコトができたとしても、何も知らない他人が偶々耳にすればソレはもはや悲鳴にしか聞こえないことでしょう
そうしてやっとの思いで出てくるのは、苦しげな吐息と嗚咽… 声の代わりに両の瞳からこぼれ落ちる大粒の涙です
両の手のひらで胸を押さえていないと、極度に高い力で圧縮されたあまりにもたくさんの想いが突き上げてきて、小さな乳房は張り裂けてしまいそうです
やがて、どこをどう流れたのか、ほんの数日前チームのみんなと歩いた川辺にかかる橋の近くに少女少年は辿りつきます
毎日遅くまで練習してクタクタになった後、みんなと、そしてお兄さんと帰った川辺… そして数日前、あの少女と出くわした場所の、そのすぐ近くにかかる橋です
虚ろな瞳で、橋の欄干と川面までの高さを見つめる少女少年の胸に、交錯した想いが何度も去来します
どれほどそうした心境のままその場所に立ち尽くしていたのか… 少し遠くから聞こえる声に気付いて我に返るには、ずいぶん間があったのかもしれません
その声は、少し遠くにいても聞こえるほどでしたから、きっとなにかを大きな声で叫ぶ声だったのでしょう
何度か同じような声が耳奥に響き、足音を伴って少しずつ大きく聞こえてきます
我に返った少女少年は、自分が14、5人の少年たちに囲まれているコトに気がつきます
涙でかすむ瞳を見開いて確かめますが、見知った顔ぶれはいないようです
少年たちは一様に暗く冷たく澱んだ瞳をしていて、少女少年を取り巻いている輪を少し狭めます
ここに至ってようやく、少女少年は自分が危ない状況にあるようだと認識しますが、何かの行動を起こすにはあまりに心が疲弊していて、とっさの行動に結びつきません
彼らの内でも最も大柄な少年がやおら近づいてきたかと思うと、猛々しい膂力で少女少年の制服の襟元をつかみ、そのはかなげな首筋を締め上げてゆきます
声をあげられない桜色の唇は小刻みに震え、恐怖と息苦しさでまたしても涙がこみ上げてきます
少女少年の華奢な身体が有無を言わせぬ力でぐいと引き寄せられ、靴のつま先は地面から今にも離れてしまいそうです
少女少年の瞳の中に恐怖に怯える色を見出して、悪意を湛えた眦はいくぶん満足したように歪みます
これから起こるであろう恐怖を、充分過ぎるほど過剰に相手に予感させるコトができた悦びで、捕食動物の様な少年の頭脳の内にはβエンドルフィンが大量に分泌され、そして更なる快楽を得るために、なおいっそうの嗜虐願望が首をもたげます
恐怖と苦痛に打ち震える少女少年の耳元まで口を近づけ、満面悪魔の相貌となった少年はあまりにも残酷な言葉を囁きます
「オレタチハ オマエノガッコウノヤツラニ タノマレテキタノサ」
少女少年の顔は血の気を失って蒼白になります
もはや瞳に映るなにごとにも意味を感じられません
もはやそれ以上なにを言われても何事をも感じらません
底知れない虚無と絶望と哀しみとが、少女少年の心を覆い尽くしていきます
力なく相手のなすがままとなった少女少年は、襟元をつかまれたままデク人形の様に川原の方へと引きずられていきます
少女少年に迫りくる未曾有の危機! 万策尽きた今、奴等のやって来る足音がきこえてくる!!
来週の「砂の城」は…
記憶を失ったフランシス! 恋路の末、再会を果たすナタリーに訪れる更なる悲劇! 「秋のおわりのピアニシモ」の巻だ!!
(れれ? ぶーけに次週予告の副題なんてあったっけ?^^;)
コメント
とりあえず、続きが読みたいので早く執筆お願いします(*^_^*)
それはそうと、文章表現力については
一応、その種の職業に身を置く立場なので
添削したくなることもありますが、
稚拙とは思えないので、自信を持って
執筆活動にハゲんでくださいませ。
あっ、そうそう・・・・
「りぼん」ネタでこられたので
「花とゆめ」から、
「バンコランはどこいった?」
好きだったなぁ~、パタリロ!