童話、のようなもの 晶

それからまた、ずいぶんときせつがながれました

はなもくさきもかえるもでんでんむしも、きしべのいきものみんながげんなりとしてしまいそうなくらいにあつくかわいたなつがやっとおわって、ようやくすずしいかぜがそよぎ、あきのふかまりをひごとにかんじはじめたころのことです

あいかわらずしんゆうのりすがあそびにきてくれることはありませんでしたが、ひばりにきりわけてもらったあたまのかさもずいぶんといたみがひいて、それほどきになることもなくなっていました

ここちよいあきかぜがはなばなをそよがせ、そして、きのこのこどものあたまにくっついた、ひらひらとなびくへんてこなかさもさやさやとそよがせました

まわりのすんなりしたはなたちからみれば、おかしくておなかがいたくなるほどにわらいころげたくなるさまでしたが、それでもきのこのこどもは、みずべにうつるじぶんのすがたをみて、ずいぶんとまんぞくげなようすでした
すこしだけ、じぶんもまわりのうつくしいはなばなのなかまになれたようなきがして、なんだかうれしかったのです

このまますんなりとせいがたかくなって、このあたまのかさがきれいにいろづくのがとてもたのしみでした

あのときのひばりがでまかせにいったなぐさめを、いまでもしんじていて、ゆめみることをつづけていたのです

なかなかいろづかないかさにちょっといらいらしたりするとき、きせつがおわってちりはじめたはなびらをあしもとからひろっておいて、あたまのかさにかざってみたり、はなびらをしぼってつくったきれいないろのしるをかさにこすりつけて、きれいないろがつくようにおまじないをしたりしました

まわりのはなばなは、きのこのこどものそういうようすをよこめでちらりとみては、きこえないようにうわさばなしをしたり、くすくすわらったり、ときにはおもしろはんぶんに、じぶんのはなびらをほんのすこしだけめぐんであげたりしていました

でも、そんなことなどしらないきのこのこどもは、おおまじめでした

いつかきれいになって、だれかによろこんでもらえるようになれますように

いつかじぶんにも、とおくからでもあそびにきてくれるようななかよしのともだちができますように

そうこころのなかでいのりながら、きょうもきんじょのはなたちからめぐんでもらった、きいろとしろのはなびらをあたまのかさのきれめにはさんで、むらさきのはなびらのしるをかさのおもてにこすりつけました

そうして、ひいんやりとここちよいあきかぜにほほをふかれながら、まだみぬなかよしとのたのしいじかんをそうぞうして、にんまりとそらをみあげていました

と、そこへ、すこしかわったリズムでひびくあしおとがちかづいてきました

にほんあしであるく、にんげんのあしおとのようでした

でも、ひとつあしおとがしてそれからずいぶんしないと、つぎのあしおとがひびかないのがちょっとふしぎでした

あしおとがずいぶんちかくまできたとき、とつぜんおおきなものがたおれるおとがしたかとおもうと、それががらがらごろごろどすんっと、じめんをこすりながらころがるような、おそろしげなおとがあたりにひびきました
きしべのいきものたちは、そのあまりのおとにおどろいて、みをすくませてしまうほどでした

みんなはおたがいにかおをみあわせて、そして、いったいなにがおこったのかみたしかめるために、おとのしたほうにおそるおそるかおをむけてみました

おとのぬしは、さっきのにんげんでした

いけのそばの、ちょっとこだかいばしょからあしをすべらせて、きしべの、きのこのこどものめのまえあたりにころげおちてきたのでした

まわりのはなばなも、きしべのブナのきも、いけにすむなまずやかえるたちも、もちろんきのこのこどももただびっくりして、ころんでうずくまったままのにんげんのようすを、ただとおまきにみまもるだけでした

ううううんと、ひくいうなりごえでないたあと、しばらくしてようやくにんげんはもぞもぞとうごきはじめました
きしべのみんなは、かたずをのんでそのようすをみまもっています

でも、にんげんはあんまりきびんにはうごけないようすで、どこかをけがしてしまったのかもしれないようでした
みるとあちこちをすりむいて、ひざやてのひらがきずだらけになっていました

それでも、にんげんはあまりそのことはきにならないようすで、じぶんがころげおちてきたあたりをてさぐりしながらはいずりだしました

はじめのうち、きしべのみんなはなにをしているんだろうとずいぶんいぶかしんでいました

でも、すぐにそのなぞはとけました

どうやらこのにんげんは、あまりめがよくないようなのです

ころげおちたあたりにさいていたふようのはなに、まるでじぶんのはなさきをくっつけるようにしてずいぶんとながいあいだしげしげとみつめたあと、ああ、これはつゆくさのはなか、などとけんとうちがいなことをつぶやくのですから、きしべのみんなはすっかりなぞがとけたのでした

めがあんまりよくないから、きっとあしもとがよくみえなくて、それでころんでここへやってきたのでしょう

にんげんは、まだあかるいひるまだというのに、まるでゆうやみのなかをてさぐりでゆくように、そのあたりをはいまわって、かおをちかづけてはふんふんとうなずいてみたり、ううむとくびをかしげたりしていました

やがてにんげんは、きのこのこどものまえにはってきました

きのこのこどもは、こんなにまじかでにんげんというものをみるはこれがはじめてでした

なんだかこわくなったきのこのこどもは、かおをふせて、ちょっとどきどきしながら、おそるおそる、かさのきれめのあいだから、にんげんのすがたをぬすみみました

かさのすきまから、そうっとうかがいみてみると、なかなかにうつくしいおもだちをしたにんげんのわかものであることがわかりました

きのこのこどもは、なんだかとてもすてきなものにであえたようなきがしました

そこで、ゆうきをだしてかおをすこしうわむけ、わかもののかおをましょうめんからみつめてみました

それから、このにんげんのわかものとなかよしになれるように、にっこりとわらってみせました

にんげんのわかものは、さっきまでとおなじように、はなさきをきのこのこどもにくっつくほどにちかづけて、にっこりとほほえみかけるきのこのこどもをずいぶんとねっしんにながいことみつめ、そうしてぶつぶつとなにやらひとりごとをつぶやいたりしました

わかものは、ああでもない、こうでもない、そうだろうか、いやそんなはずはないと、ずいぶんとひとりでおもいなやんだあげく、とつぜんおおきなこえをはりあげました

ああ、ぼくはとうとうみつけたぞ きみこそがぼくのさがしもとめていた、せかいでただひとつの、ゆめにまでみたはなだ おお、なんというこううんなのだろうか あそこであしをつまずかせなければ、ぼくはきっとこのさきもながいことずうっと、あてもなくきみをさがしつづけなけばならなかっただろう そのはなびらのいろづきぐあい かぐわしくこうばしいそのかおり ああ、まるでなんじゅうねんもこいこがれつづけたじょせいに、いまとつぜんにばったりとでくわしたかのようだ もうきみをはなしたりするもんか

わかもののおおきなこえにびっくりしたのもありますが、あまりにもとつぜん、じょうねつてきなあいのこくはくをうけたかのようなきもちになったきのこのこどもは、きゅうにむねがどきどきしてきて、うれしいようなはずかしいようなおそろしいような、どうしたらいいのかさっぱりわからないきもちになりました

それで、もじもじしてしまって、せっかくわかものにむけたえがおをふたたびうつむかせてあかくなってしまいました

うつむいてあかくなりながら、このわかものはめだけではなく、はなもしょうしょうぐあいがわるいのかしらと、しんぱいにもなりました

なぜって、いままでいちどだって、きのこのこどものことをいいかおりだなんてほめてくれたものはいなかったからです

あとでわかったことですが、にんげんにはきのこのかおりがとてもよいものらしいのでした

うつむいてあかくなっているきのこのこどもにきづいて、こうふんからはっとわれにかえったわかものは、やさしくいたわるようにきのこのこどもにささやきました

ああ、ひっそりとそこにさいていたきみをとつぜんおどろかせてしまってごめんよ もうおどろかせたりはしないから、あんしんおし きみのすがたが、あんまりゆめのなかでもとめつづけたはなのまんまなものだから、ついついこうふんしておおごえをあげてしまったんだ どうかもうこわがらないでおくれ、あいらしいきみ まわりのうつくしいはなばなにかこまれて、ひっそりとかくれるように、でもそれでもうつくしくあろうとさいていたきみのすがたこそ、ぼくがもとめつづけていたほんとうのうつくしさなんだよ ぼくはきみにあうためにならまいにちだってここにやってくる そうしてひがくれるまできみといっしょにすごそう ここからきみをぼくのへやへとつれてかえりたいのはやまやまだけど、そうしたらようやくであえたはかなげなきみが、かれてしんでしまうかもしれないだろう だからぼくはまいにちここにやってくるさ きみにあう、そのことだけのためにね

きのこのこどもは、なんだかすこしふるえているかのようでした

すこしふるえて、ほっぺとあたまのかさとをまっかにして、なんにもいえないままうつむいているようでした

ちいさなひとみからは、まえにりすがともだちになってくれたときとおんなじか、それよりももっとたくさんのなみだがあふれてきて、ぽろぽろころころと、あしもとにころがっておちてゆきました

ずうっとながいあいだ、なかよしのともだちがやってきてくれるのをまちこがれていました

ずうっとながいあいだ、なかよしのともだちからこのことばをもらえることをまちこがれていました

いま、きのこのこどもは、やっとひとりぼっちではなくなったのです

うまれてきてよかったとおもいました

このわかものにであえてほんとうによかったとおもいました

だからなんにもいえなかったのでした

だからなみだがあふれてきてとまらなかったのでした

コメント

  1. ビバメヒ より:

    作者の復活は、いかに?

  2. すずね より:

    >ビバ☆メヒコさま
    最近 気分がのらなくて、素描はできてるのに筆がはしりません
    そのかわり、姉妹サイトの「蒼天の残月」でダラダラやってたりです^^;
    もすこしお待ちあれ♪

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