それからまたなんどか、はるとなつとあきとふゆとがすぎてゆきました
あのとき、りすのためにじぶんでひきさいたかさのきずぐちは、だいぶめだたなくなりました
そのきずのあとからはえてきたあたらしいかさも、ずいぶんとおおきくそだって、あのときよりもいくぶんおおきくさえみえるほどになっていました
でも、さいしょからはえていたかさとはだいぶんおおきさがちがうので、なんだかぶかっこうなやぶれがさみたいになってしまって、きのこのこどもははずかしくてかおをふせてすごしていました
あたたかいひざしがあたりをおおい、いけのまわりじゅうがうつくしくさきほこるはなたちでみたされた、あるとしのはるのことです
きのこのこどものあたまのうえあたりで、うるさくさえずるいちわのひばりがいました
ひばりは、なにかにひどくいらいらしているようすで、さえずりつかれてちょっときしべにおりてきて、すこしいきつぎをしたかとおもうと、またいそがしくそらにまいあがって、やかましくさえずることをくりかえしていました
なんどかそらときしべとをいったりきたりして、さんざんにさえずったあと、さすがにのどがからからにかわいたとみえて、きのこのこどものそばにある、とおあさのきしべにおりてきて、すんだみずでここちよさそうにのどをうるおし、きもちよさそうにみずあびをしはじめました
きのこのこどもが、とりというものをまじかでみるのは、これがはじめてのことでした
うつむきぎみのかさをすこうしうえにあげて、ひばりがおいしそうにみずをのむすがたや、みずあびしながらはずくろいをするさまをみつめていました
それはとてもうつくしく、そしてあいらしいいきもののすがたにみえました
ようやくひとごこちついたひばりは、ふとふりかえると、じぶんのすがたにみいっているきのこのこどもにきがつきました
みればずいぶんへんてこなかたちのかさをひろげた、たったひとりきりのきのこのこどもです
ひばりはふしぎにおもってちょこんとむきなおり、きのこのこどもにむかってひとこえさえずりました
あんた、なんというきのこかね
きのこのこどもは、じぶんがきのこだとはしらないままそだったので、ひばりのこえにおどろいてこうこたえました
きのこってなんですか それがわたしのなまえなのですか
すると、これはおどろいたというふうにめをまあるくして、ひばりがちょんちょんとちかずいてきて、こうさえずりました
おどろいたこともあるもんだ あんたはじぶんがだれなのかわからないのかね きみょうなこともあるもんだよ きのこといえば、かぞくなかよくみをよせあってくらしているものだが、あんたはみたところひとりぼっちだね そうゆうわけで、じぶんがだれなのかわからないままそだってしまったんだね
ああ、なるほどなっとくがいった、というようなひとりがてんをして、さもかわいそうなものでもみたかのように、めにうっすらとなみださえうかべながら、ひばりはいっそうきもちをこめてさえずりつづけました
おお、なんとかわいそうなことだろう あんたはたったひとりぼっちでここでいきてきたんだねえ かみさまなんてやつがいるとしたら、そいつはきっと、あたしからおかねをかりておいて、それっきりいちもんたりともかえしてくれないおてんとさまとおんなじくらい、ちもなみだもないひどいやつだろうさ そうかい、あんた、ねえ、ほんとうにまあ、なんとかわいそうにねえ
きのこのこどもは、なにかいおうとしてくちをぱくぱくさせるのですが、はやくちでひといきにさえずるひばりのいきおいにおされて、なんにもいうことができませんでした
そうかい、そうかいと、ひとりでうなずいてひとりでなみだするひばりは、きのこのこどものことなどめにうつっていないかのようにけたたましくさえずりをつづけました
でも、まあ、みておいでな あたしがおてんとさまにかしたおかねをとりかえしたら、こんどはあんたのことをかみさまにうったえてやるさね なあに、あんしんおしよ あたしがあんまりけたたましくおかねをとりたてるもんだから、おてんとさまだってくもにかくれちまうくらいなのさ もうひとがんばりにちがいないよ かみさまだってきっとおんなじさね どうってこともないってもんだよ
そういうと、ようやくひばりはいいたいことをあらいざらいはきだしたとみえて、きのこのこどもを、まるでいまはじめてみたもののようなめであらためてみつめました
ひばりのいきおいにあっけにとられて、なんにもいえないままだったきのこのこどもをみつめて、ひばりはみょうにしらけたようなこえでさえずりました
さっきからなんにもしゃべらないが、あんたいったいどうしたのかね、 あまりのじぶんのみじめさに、ことばもはなせなくなっちまったのかい
そういわれてようやく、きのこのこどもはあたまのなかをせいりしながら、ゆっくりとはなしはじめました
あの、ええと、もししっていたらおしえてもらいたいんです さっきあなたがいっていた、きのこってなんのことですか
きのこのこどものみのうえにどうじょうしてか、ひばりはいたわりをこめてさえずりました
きのこってのは、あんた、そりゃああんたみたいないきもののなまえさね
そうきいて、きのこのこどもはしりたいことがどんどんあふれてきました
わたしみたいないきものって、わたしいがいにもどこかにいるんでしょうか どうしてわたしはここにひとりぼっちでいるんでしょうか ほかのきのこのみんなはどうやってくらしているんでしょうか みんなは、やっぱりわたしみたいに、さびしくひとりぼっちでくらしてたりするんでしょうか それともなかよしのともだちがそばにいて、まいにちたのしくわらってくらしているんでしょうか このあたまにひらいているかさはいったいなになんでしょうか いつかはきれいなはなたちのように、わたしもきれいなきのこになって、だれかによろこんでもらえるようになれるんでしょうか ここにいても、なかよしのともだちにいつかはあえるんでしょうか
きのこのこどもは、こんどはさっきのひばりのさえずりにまけないくらい、うまれてこのかたずうっとわからないままだったことをいっきにきいてみました
こんどはひばりがあっけにとられるばんでした
なにかくちばしをはさもうとしても、きのこのこどものねつをおびたふんいきにおされてしまって、めをまんまるにしたままくちをあんぐりとあけて、ことばがおわるのをまつしかないようすでした
ひばりは、しっているかぎりのことをすこしはやくちで、きのこのこどもにおしえてやりました
もりやはやしのなかの、うすぐらいしめったところにはきのこがたくさんくらしているということ
ほかのおおくのきのこたちは、かぞくみをよせあって、なかよくしあわせそうにくらしているということ
きっとかぜやあめにながされて、きのこのこどもはここにひとりたどりついたんだろうということ
あたまにひらいたかさが、なにのやくにたつのかはしらないけれども、きっとはなびらみたいなものにちがいないだろうということ
きれいなきのこをみたことはいままでないけれども、そのかさがいろづいておおきくはなびらのようにひらけば、きっとだれかがきれいだとよろこんでくれるかもしれないということ
そうなれば、きっときのこのこどもをたいせつにおもって、まいにちのようにあいにきてくれるなかよしのともだちがたくさんできるようになるだろうということ
でもまあ、ひばりがおしえてくれたことばのなかには、かわいそうなきのこのこどもをあんまりがっかりさせてしまわないように、だいぶんきづかってくれたところもあったので、ほんとうのところはなぐさめているひばりにもわからないことがたくさんありました
ひばりのなぐさめをきいても、まだまだわからないことがあたまのなかにわいてきて、そのこともきいてみたかったのですが、ざんねんながらひばりにはそれいじょうのことはわからないようすでした
それに、ひばりもそろそろ、じぶんがさっきまでしていたことのつづきにもどりたそうなそぶりでした
そのようすをみて、きのこのこどもは、あとふたつだけおねがいしたいことがあるんですと、ひばりにいいました
ひばりは、ちょっとうるさそうなかおをしましたが、それをさとられないようにすぐにやさしそうにめをほそめていいました
なんだい、かわいそうなきのこさん
それをきいて、すこしほっとして、きのこのこどもはえんりょがちにいいました
ええと、ひとつは、このちかくのもりにすんでいるはずのりすさんのことなんです もし、りすさんにあうことがあったら、きのこのこどもがまたあえるのをたのしみにしているよって、つたえてもらえないでしょうか わたしの、はんぶんのこったほうのかさもだいぶおおきくなったから、またはんぶんあげられますよって
ああ、おやすいごようだとも
と、ひばりはなまへんじでうけあいました
それをきいて、きのこのこどものかおは、ぱあっとあかるくなりました
ありがとう、ひばりさん きっとおねがいしますね それと、もうひとつなんですけど
ひばりはちょっとじれったそうにききかえしました
ああ、それからあとはなんだね
もし、わたしがおおきくなっても、きれいなはなびらをつけられないままだとかなしいから、ひばりさんのくちばしでつついて、わたしのかさをはなびらみたいにこまかくきりわけてはもらえないでしょうか
これにはひばりもおどろきました
いくらうつくしいはなにあこがれたからといって、いったいどこのせかいに、あたまのかさをきりわけてしまったきのこがいるものでしょうか
じれったそうだったひばりも、おもってもいなかったきのこのこどものねがいに、ちょっとだけこうきしんがわいてきました
そりゃあ、あんた、そうするのはかんたんだがね、かさをきりわけたりしたらあんたもずいぶんといたいおもいをするんじゃあないのかね
きのこのこどもは、なにかおもうところがあるようなめをして、それにこうこたえました
どうせわたしはここからうごけないままなんです ずうっとこのまま、おもたくてぶかっこうなかさをかぶってこのさきもいきていくんです いつか、はなびらになるかもしれないとゆめをみながら、このままなにもしないできせつがすぎてゆくのをただまっているのなんて、もううんざりなんです もう、ひとりぼっちなのはいやなんです だれかによろこんでもらえるような、わたしにあいにきてもらえるような、そうゆうものになりたいんです
きのこのこどもは、いままでになくおもいつめたようすで、ひばりにいいました
じぶんのいったでまかせのなぐさめのせいで、ずいぶんとおもいきったことをかんがえつくものだと、ひばりはおもいました
でも、これいじょうきのこのこどもにわずらわされるのも、さすがにめんどうにおもえてきたひばりはこういいました
ああ、そこまでおもいつめたけっしんをもっているのなら、どうしてあんたのねがいをことわったりできるものかね ああ、いいとも あたしのかたくするどいくちばしでつつけば、なあに、あっというまのことだろうさ あんたもいたいのはかくごのうえなんだろう
そういってひばりは、きのこのこどもにちょんちょんとちかずきました
まえに、じぶんでかさをきりさいたことがあるきのこのこどもは、そのいたみをすっかりそうぞうすることができました
それでも、いくらいたくてつらいことだとしても、もう、ひとりぼっちでだれからもよろこばれないままのじぶんでいるのはたえられないことなのでした
もりやはやしで、なかよくしあわせにくらしているというきのこのなかまたちのように、じぶんもだれかとなかよしになりたかったのです
きのこのこどもは、ひばりのほうにあたまをかたむけて、かさをつついてもらいやすくしました
ひばりも、そろそろこのめんどうくさいことからはなれたかったので、なんのあいずもなく、いきなりきのこのこどものかさを、くちばしでつつきはじめました
じぶんでかさをきりさいたときは、いたみにたえながらちょっとずつじぶんできりとることができたけれども、こんどはちょっとちがいました
するどくとがったいしのかけらを、なんどとなくあたまにざくざくとつきさされているかのようで、さすがにかくごをきめていたきのこのこどもも、なみだをこぼしながらひめいをこらえつづけるのでせいいっぱいでした
そうして、しばらくすると、きのこのこどものあたまにひらいたかさは、まるではなびらのように、ひらひらとほそながくきりわけられました
きのこのこどもは、あたまぜんたいにひろがるずきずきとしたいたみにきをうしないそうになりながら、このめんどうなしごとをしあげてくれたひばりにおれいをいいました
どうもありがとうございます、ひばりさん おかげではなびらのようなかさがきれいにひらきました ごおんはいっしょうわすれません なにかわたしでおやくにたてそうなことがあったら、えんりょなくいってくださいね
ひばりは、とっととこのばからはなれて、おてんとさまにかけあいにいきたかったものですから、ほんとうはずいぶんとおおざっぱにかさをきりわけたのですけれど、そのことはめんどうなのでだまっていました
そうして、おおよそどこからどうみても、きのこにはみえなくなったきのこのこどものすがたをみると、こういってとびたっていきました
なあに、れいにはおよばないよ きっとそのきずがいえたころには、きれいなはなびらみたいにそのひらひらのかさがかぜにそよいでさ、あんたのすがたにみとれただれかが、あんたをみてよろこんでくれるだろうさ はやくあんたにともだちがみつかるのをいのっているよ
きのこのこどもは、そらのうえにまいあがってけたたましくさえずりはじめたひばりを、くらくなってみえなくなるまで、いつまでもずっと、いとおしそうにみあげていました
コメント
一話完結でも良かったのでは?きのこのこの先が気になる。毒キノコで森を破戒するとか?
ビバメヒは、携帯電話からのコメントです。☆が出ないのだ。
>ビバ☆メヒコさま
ソコはほら、今後の出版のコトなども考えて計算高くやってるワケですょ{%打ち上げ花火(ストロボ)hdeco%}
「帰ってきたきのこのこども」とか「きのこのこども純情恋唄」とかの連作にして、いいカンジに売れてきたら「きのこのこどもとアズガバンの囚人」とか「きのこのこどもと不死鳥の騎士団」とかまでやって、映画化して、ゲームや攻略本がでて、はては主演のステキなメンズと原作者がめでたく結婚とかまで、計算に入ってるワケです{%うれしい(ルンルン)hdeco%}
そんなワケで、次回もたぶんコレでしょう(ってゆうか大筋は書けちゃってるし…){%顔モジヒヤッ(シェイク)hdeco%}
お楽しみに~{%顔文字喜びhdeco%}