神は土くれをこねて御身に似せたひとがたを造り、それに息を吹き込んで生命ある存在… ヒトとしました
ヒトは神の恩寵を受け、楽園に住まう幸いなる者となりました
神はヒトを愛し、ヒトも神を愛し敬いました
あるとき、ヒトは蛇にそそのかされて、食することを神に禁じられていた知恵の実をクチにしてしまいました
神との契約を違えたヒトは神に見放され、楽園を放逐されてしまいました
以来ヒトは、常に自らの存在の罪深さに苛まれ、安住の楽土を求めて彷徨するモノとなりました…
神は、無価値なる存在である土くれに息吹を吹き込み、その存在を「意味あるモノ」としてくれました
ただの土くれに意味を与え、ソレを愛し給うたのは神です
本来、無価値で取るに足らない存在であるはずのその身に、神の愛を受けたヒトの心は至福であったことでしょう
神の御側に在り、その御手に抱かれている限り、自分が本来は無価値な土くれなのだと感じなくてすむのですから…
一度はその身に受けたはずの愛を失い、神の御側を放逐されたヒトの絶望は、奈落へと続く無明の闇に墜とされたかの如きであったことでしょう
罪深きその身を呪いながら、かつて自分は神の御手に抱かれたのだという記憶を反芻して涙したことでしょう
確かにあの時、自分には意味があったのだと涙したことでしょう
絶望の淵に追いやられながら、失った楽園の記憶を繰り返しなぞり、もはや決して足を踏み入れることの叶わぬ魂の安息地を望郷したことでしょう
あの方はワタシにとっての神でした
あの世界はワタシにとってのエデンでした
神とエデンとを失ったワタシは、ふたたび無価値な土くれへと戻りました
ゼロがゼロに戻った
ただそれだけの当たり前のコトをいまだに飲み下せません
失った楽園への途路は戻らず、失った愛ももはや還るコトはありません
エデンを追われたヒトは、酷苦なる荒土にてあくせくと汗を流してその日の命脈をかろうじてつなぎ、病と老いとに苛まれながら、やがては土に還る… 儚くみじめな存在となり果てました
あの方の愛を失い楽園を放逐されたワタシは、幸いなる七日間のうちに死に切れなかった「八日目の蝉」となり果てました
どちらも同様に、失われた神の愛と楽園とを夢見ながら、重き躯を引きずりて今日の露命をつなぐ者です
エデンの東に置かれたケルビムと炎の剣によって、ヒトは楽園への途路を永遠に閉ざされました
拒絶という深く高い絶壁によって、あの方とあの方のいらっしゃる世界への途路も閉ざされました
エデンの入り口に立ち尽くし、「自分はもはや無価値な土くれに還ったのだ」と、「この場所はもはや、自分には立ち入れない世界なのだ」と、呪文の様にココロに繰り返します
呪文はやがて、此岸を離れ彼岸へ至らんと欲するアナグラムへとエンコードされてゆきます
厭離穢土 欣求浄土
土は土に、灰は灰に、塵は塵に…
地より成るものは腐れ落ちやがて大地に還らん
長い長いエンコードの果てに、それらのアナグラムは「祈り」という最終形態に組み換えられます
せめて、あの方とあの方の大切にしていらっしゃる方々に、祝福の花びらの降りそそがんことを…
あの方の幸いを祈るコトだけが、ワタシの償いです
だからきっと、ヒトも神に祈るのでしょう…
コメント
色々と思うところはあるだろうけど、今の瞬間を生きていくしかない。刹那的でも、その刹那刹那を大事にしてたらそれで良いやん。あの方の幸せを祈るとともに、自分の幸せも祈るべきだともうぞよ。